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経済と人間の旅

 2014年に亡くなった経済学者宇沢弘文氏の日本経済新聞に掲載されたコラム「私の履歴書」を第吃瑤法日経および日経産業新聞に掲載された論考を第局瑤暴犬瓩動貂の本に編集されたものです。
 著者が昭和3年米子に生まれたときからの人生を2002年に記した「私の履歴書」は興味深く読めるものでした。一高時代にドイツ語の勉強でゲーテを知り、ゲーテがワイマール公国の宰相を務め「国王や貴族の独占物であった芸術作品や学問、庭園などを国民共有の財産として一般に開放し」、「公園はその一例」という、ゲーテの考え方が心に深く刻み込まれ、宇沢氏の経済学の根幹を成す「『社会的共通資本』の考え方はゲーテの思想が参考になっている」と言います。1983年に文化功労者となり宮中で昭和天皇から「キミ。キミは経済、経済と言うけれども、要するに人間の心が大事だと言いたいんだね」と言われ、「電撃的なショックを受け」、「経済学の中に人間の心を持ち込まなければいけないと思った」ことも、社会的共通資本の考え方に含まれているようです。宇沢氏はスタンフォード大など米国でも研究していますが、シカゴ大に所属していたときにショックドクトリンのフリードマンがいたエピソードは大変興味深く読みました。
 第局瑤脇販した論考の寄せ集めなので、重複しているところもあって、ケインズ経済学については度々述べられています。ケインズ主義には「財政支出が総需要、労働雇用量に及ぼす効果のみを重視して、具体的にどのような内容を持ち、それが、現在から将来にかけての生産条件および社会的環境に対してどのような影響を及ぼすのかという点については殆ど考慮してこなかった」という根本的な問題点があるとのことです。不況対策で「ぼうだいな公共的資源が自動車道路建設に投下され」たり、「政府負債の長期的蓄積の趨勢に対して有効な歯止めを形成することができなくなって」しまったと批判されているようです。ケインズが生まれ育った閑静な住宅街ハーベイ・ロードにちなんで、「ハーベイ・ロードの前提」と言われるケンブリッジやオックスフォードを卒業して一般大衆より優れた「知的貴族」が英国全体の利益や子孫への影響を考えて政治を行うという政治思想的立場が後年フリードマンら自由主義派の経済学者に批判・中傷されたようです。さらに、「60年代の終わりごろから、世界の資本主義が大きな不均衡の時代に入るとともに、その有効性はとみにうすれ、ケインズ経済学に対する社会的信頼は完全に近いまでに喪失することになってしまった。」とのことです。
 ケインズを批判する新保守主義に対して著者は「マネタリズムという新保守主義の衣を装った古典派的立場が。。。。私的利潤追求をさらにいっそう正確に押し出し、資本主義的な制度に対するさまざまな規制を取り除いて、再び恐慌が起き得るような条件をつくり出そうとしている。。。。資本主義制度の根本にかかわる問題でもあるように思われる。」と批判しています。この論考は1979年10月23日日経新聞掲載のものですが、アベノミクスやフリードマンらシカゴ学派に対する批判のようにも聞こえます。
 フリードマンの経済学に対する解説では、ゲイリー・ベッカーがフリードマンのヒューマン・キャピタルという考え方を人間の行動すべてに適用し、たとえば犯罪の経済学では、個人が殺人をするときに得られる楽しみが捕まって死刑に処せられるときの苦しみより大きいときに殺人行為を選択するとして、死刑に処せられる確立を考慮して殺人にともなって失われる効用の数学的期待値まで計算していると、批判的に紹介しています。宇沢氏の経済学はフリードマンとは対極にあるようで、「医療を経済に合わせるのではなく、経済を医療に合わせるのが、社会的共通資本としての医療を考えるときの基本的視点である」と述べています。「国民医療費の割合が高ければ、高いほど望ましいという結論が導き出される。」という視点はとても新鮮で、多くの人に知ってもらいたいと思いました。

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