生物学者、地球を行く
様々な環境で生きる生物についてそれぞれの研究者が紹介しています。生物の解説だけでなく、タイトルにあるように、その場所まで行くことが重視され、一般の人がそこに行く際の難易度まで記載されています。
生態系は、多くは太陽光をエネルギーとする光合成により植物が有機物を合成することから始まる食物連鎖に支えられていますが、太陽光が届かない深海底に化学物質をエネルギーとする「化学合成生態系」が存在するそうです。海底火山から供給される硫化水素やメタンが酸化するときのエネルギーで海水中の二酸化炭素から有機物を合成する細菌が生存し、化学合成生態系が成り立つようです。光が届かないのは深海底だけではなく、森の地面(林床)でも鬱蒼とした茂みで遮られて太陽光が殆ど届かないようです。わずかな光で光合成をする植物もいますが、光合成を止めて菌類から養分を略奪する「菌従属栄養植物」が存在するそうです。光合成をしている植物の菌根共生と異なり、一方的に菌類から栄養分を得るために菌類をだまして寄生しているようです。
本書によると熱帯雨林では数年に一度、多くの森の木々が同調して開花結実する現象がみられるそうです。結実しない年は種子の捕食者には餌が不足しますから食糧不足で捕食者の個体数は減少し、一斉開花結実した際に捕食者が食べきれず生き延びる種子が増え、これを「捕食者飽和現象」と呼ぶそうです。
本書には動物も登場し、ボルネオ島でテングザルの反芻行動を発見した研究について紹介されています。反芻動物と言えばウシなどの偶蹄類で、テングザルは四つにくびれた複胃を持ちますが、カバやナマケモノのように複胃を持っていても反芻行動をしない動物と思われていたようで、著者の発見はなかなか信じてもらえなかったようです。50年以上前のドイツ語の文献に動物園での観察の報告があるようですが、これはチンパンジーなど大型類人猿のケージ飼育で見られる吐き戻し行動と同じ異常行動とみられ、反芻行動とは認識されていなかったとのことです。
上記の他、極地や砂漠、宇宙など様々な環境での生物について興味深い記述が満載です。
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