精神科身体拘束の衝撃

 長期の入院隔離が多く、欧米と比較して日本の精神科医療が遅れていると言われていましたが、入院で例外的措置のはずの身体拘束が頻繁に行われているという9/7放送のEテレの番組に衝撃を覚えました。番組には身体拘束されたという多くの当事者からの声と、現場は人手不足で拘束せざるを得ないという看護師の声が寄せられていました。コメンテーターとして出演していた精神科医で筑波大教授の斉藤環氏はどうしても身体拘束が必要なことはあるが、必要最小限度とするべきで一回で最長4時間に制限し、拘束中は必ずスタッフが付き添うべきと言っていました。しかし、実際は平均3か月に及ぶ身体拘束が行われ、拘束は増えているとのことでした。拘束に地域差があったり、措置入院よりも通常入院の方が拘束が多いなど身体拘束の適用基準が不適切に運用されていることが指摘されていました。

 精神科ではありませんが、脳出血からの回復期に栄養補給のための胃管を鼻から挿入した状態でリハビリ病院に転院し、胃管を引き抜かないように麻痺のない手を拘束されて、見舞いに行った私に拘束を解いてくれるよう懇願していた母の顔は忘れられません。身体の一部であっても拘束がどれだけ苦痛で尊厳を傷つける行為であるか、実感しました。

 双極性障害で入院して身体拘束され、10日間の拘束で生じた血栓による肺塞栓症で死亡したとみられるニュージーランド人男性の遺族も番組で紹介されていました。病院は医療行為が適切であったと主張しているようですが、身体拘束が事実であれば過失致死に相当する医療事故として検証されるべきではないでしょうか。

at 07:56, kameriki, 医学

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O157の恐怖再び

 O157の食中毒が再びクローズアップされています。O157と言えば、「焼肉酒家えびす」の食中毒事件ですが、この時は生肉のユッケについていたO157が原因でしたから、「肉は生で食べない」という大方の人に受け入れ可能な方法で予防が可能でした。しかし、惣菜店のポテトサラダが原因となれば、話は別です。加熱調理しないで食べる総菜は食べないという予防が可能かもしれませんが、販売業者の不適切な取り扱いがあれば、あらゆる市販の総菜や弁当でもO157に汚染される可能性があります。リスクがあるものの利用をすべて排除するのは、交通事故を恐れて自動車を排除するのと同様に、著しく利便性を損なうことになります。

 O157が付着した食品を摂取しても症状が現れないことも多いものと思われます。疲労などで体調が悪く生体の防御機構が弱っているときは、O157摂取による症状が現れやすく、摂取したO157もしくはO157が産生するベロ毒素の量が多ければ、より重篤な症状となるリスクが高くなります。その意味では、体調が悪いときはO157汚染のリスクがある総菜を加熱せずに食べることは避けるとか、食品にO157が付着してもその中で増殖するのを防ぐために冷蔵庫などで食品を低温に保つくらいしか防御策はなさそうです。

 

at 07:36, kameriki, 医学

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SFTSにご用心

 マダニが媒介するウイルス感染症重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome,SFTS)、2013年に国内で死亡した患者が初めて確認され、話題になりました。それ以来、名前を聞かなくなっていましたが、昨年SFTSで亡くなった50代の女性が猫にかまれて感染したとみられることが7月24日に報道されました。この報道によると毎年60人前後の感染報告があり、約2割が亡くなっているとのことです。話題にならなくなっても無くなったわけではなく、危険な感染症として定着しているようです。

 これまでは予防手段として、草むらでは長袖などを着て肌の露出を抑えてマダニにかまれないようにすることが重要とされていましたが、猫などの動物が媒介するリスクにも注意する必要がありそうです。

at 08:34, kameriki, 医学

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高安動脈炎

 アクテムラ(トシリズマブ)の承認を伝える記事で、追加された適応症に高安動脈炎、巨細胞性動脈炎とありました。後者は読めますが、医学用語としては見慣れない前者の単語に戸惑いました。ネットで調べると、「高安」は「たかやす」と読み、病気の発見者、つまり、新大関と同じ人名ということのようです。

 高安動脈炎は難病に指定されていて、難病情報センターのホームページによると「大動脈やそこから分かれている大きな血管に炎症が生じ、血管が狭窄したり閉塞したりして、脳、心臓、腎臓といった重要な臓器に障害を与えたり、手足が疲れやすくなったりする原因不明の血管炎です。炎症が生じた血管の部位によって様々な症状がでます。わが国の高安右人教授が1908年に初めて報告しましたので高安動脈炎と呼ばれています。かつて大動脈炎症候群とも言われましたが、病変は大動脈以外の全身に生ずることがあるため、現在は高安動脈炎と呼んでいます。」とのことです。原因不明の炎症ですが、ステロイドなどの治療で比較的良い予後が得られているようです。血管の炎症が早く見つけられれば、予後も良くなることが期待され、早期発見のためにも新大関の活躍により「高安動脈炎」の知名度が上がれば良いと思います。

at 06:33, kameriki, 医学

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散瞳体験

 緑内障検診を受けて来ました。緑内障は視神経の障害により不可逆的に視野が欠けていく疾患で、現在可能な治療は眼圧を下げて症状の進行を抑えることだけですが、早く治療を始めれば、生活に支障がないレベルに視力を保つことができます。そのためにも早期発見が重要ですが、日常生活では相当症状が進行するまで自覚できないため、自覚症状がなくても定期検査を受けることが必要です。身内に緑内障患者がいて遺伝的リスクもあるため、緑内障検診を受けなくてはと思いながらさぼっていました。市の保健所が主催する節目検診で500円の受診券をもらったため、この機会に検診を受けました。検査は眼圧測定、視神経乳頭検査(OCT検査)、眼底写真、細隙灯顕微鏡検査でした。検査のために散瞳剤(ミドリンP)の点眼を受けました。散瞳は初めての体験で、点眼後効果が現れるまで待合室にいるように言われ、新聞を読んでいると、小さいな字がだんだん見えにくくなってきました。それでも、室内では不自由を感じませんでしたが、すべての検査を終えて病院から出ると目を開けていられないくらい眩しく、くらくらしました。下を向いていれば、まだ良いのですが、信号機を見るのも大変でした。何とか家までたどり着き、室内に入って不自由は感じなくなりました。

 ミドリンPはトロピカミドとフェニレフリン塩酸塩の合剤で、muscarinergic antagonistのトロピカミドは瞳孔括約筋を弛緩させ、α1-adrenergic agonistのフェニレフリン塩酸塩は瞳孔散大筋を収縮して散瞳を起こすようです。フェニレフリンはネオシネジンとして、トロピカミドはミドリンMとしてそれぞれ単独でも散瞳剤として使われ、添付文書によると両者の併用効果は相乗的とのことですから、非常に強い散瞳剤が使用されたことになります。ミドリンPの添付文書には禁忌として「緑内障及び狭隅角や前房が浅いなどの眼圧上昇の素因のある患者[急性閉塞隅角緑内障の発作を起こすおそれがある]」と書かれています。緑内障かどうかを検査する人に使用して、結果として緑内障の患者に点眼したことになったらどうするのかという気もしますが、眼圧測定だけは散瞳剤の点眼前に行っていましたので、緑内障発作が起こる心配はないと判断したものと推測します。

 散瞳剤を使用する際に自動車の運転を控えるように指示されますが、散瞳の経験がないと「少し待っていれば大丈夫」と思うかもしれません。散瞳剤の種類や外の明るさなどでも状況は異なるものと思いますが、散瞳剤を使用する検査をして自分で車を運転して帰ることは極めて危険だと実感できました。

at 07:37, kameriki, 医学

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シンガポールのジカ熱

 リオデジャネイロオリンピックが盛り上がり、ブラジルのジカ熱の話題が忘れ去られていましたが、ジカ熱の感染は静かに広がりを見せているようです。米国のフロリダ州での感染が報告されていましたが、シンガポールでも感染者が増えているとのことです。オリンピックでブラジルに渡航した人もいるかもしれませんが、ブラジルはどちらかといえば遠い国で、ジカ熱も日本人にはあまり関係ない感染症というイメージでした。しかし、シンガポールがジカ熱の蔓延国となれば、日本への影響はブラジルの比ではないでしょう。日本人旅行者がシンガポールで感染したり、日本にウイルスを持ち込んだりするのも時間の問題のように見えます。むやみに恐れる必要はありませんが、ジカ熱のことを頭の隅に入れておいたほうが良いかもしれません。

at 08:00, kameriki, 医学

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子宮頸がんワクチン副作用研究は捏造か?

 子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)の副作用に関する厚生労働省研究班の代表を務めた信州大学の池田教授が、HPVワクチンを投与したマウスだけ脳に異常な抗体がみられたなどと発表した研究成果について捏造と報じた月刊誌「Wedge」の発行元ウェッジ社らに損害賠償などを求め、東京地裁に提訴したと報じられました。WedgeはHPVワクチンの副作用問題に関して、接種で副作用が現れた女性の主張を根拠にHPVワクチンを否定しようとする「騒動」を科学的な論証から批判的に報じていました。厚労省の研究班によって副作用の可能性が科学的に示されたのであれば、Wedgeにとってはこれまでの主張が否定されることになりかねません。当然、Wedgeとしても池田教授の研究発表について取材して反論の報道をすることになったものと思います。教授が捏造と主張するその記事は、ネットで読む限り信憑性が高いように思えます。少なくとも記事に記されている取材結果が真実であれば、池田教授の発表が捏造とみなされても仕方がありません。

 記事が捏造かどうか法廷で明らかにされることになれば、池田教授の発表した研究成果が事実かどうかも明らかになるでしょう。

 HPVワクチン接種後に深刻な症状を訴える女性の声は尊重されるべきで、HPVワクチンの副作用は否定できません。しかし、どのワクチンでも副作用があり、HPVワクチンだけが他のワクチンより副作用が多いもしくは重大であると証明する科学的根拠はないようです。ワクチン接種を受ける立場からすれば自分に症状が出れば100%ですが、行政から見れば、全接種者の1%に満たないほんのわずかな例外となります。厚労省はウィルスの流行を抑制するという社会的なベネフィットと副作用のリスクを天秤にかけてワクチン行政を行う必要がありますが、日本社会では両者の異なる視点が十分理解されていないのかもしれません。

at 08:00, kameriki, 医学

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機能性表示食品制度の問題点いきなり発覚

 新しく始まった機能性表示食品制度で届け出が受理された最初の商品の中に特定保健用食品(トクホ)の審査過程で「安全性が確認できない」と指摘された成分を用いる商品があると報じられました。FOOCOM編集長松永氏のブログ記事を朝日新聞が報じたもので、ブログ記事は専門的な(科学的)用語を含んでいますが、多くの人に読んでもらいたい内容です。
 当該商品はリコムという会社の「蹴脂粒」というエノキタケ抽出物配合のサプリメントで「体脂肪(内臓脂肪)を減少させる働きがある」とうたっているようです。トクホの審査で認められなかったことに納得せず新しい表示制度で届け出たようです。メーカーがトクホ申請していたため根拠となる科学データが専門家による審査を受けましたが、トクホ申請せず機能性表示の届け出だけをしていたら、専門家によって成分の問題点について指摘されることなく機能性が表示されて販売されることになっていたかもしれません。
 消費者庁の山口大臣は、「一般論として安全上問題があるということになった場合には機能性表示食品から外さざるをえない」と言ったようですが、申請書類が整っていれば届け出は受理され基本的に安全性や機能性の審査はされないのがこの制度で、山口大臣の発言は制度の趣旨と合致していません。この成分はたまたまトクホに申請されていたため審査されていた例外で、ほとんどの成分は機能性も安全性も専門家に審査されることなく機能性が表示されて販売されると考えるべきです。機能性表示食品は安全と思わせることになれば大臣の発言はミスリードです。
 安全性と機能性に十分科学的根拠が存在する成分も本制度で届け出されるものと思いますが、根拠が怪しいものも混じった玉石混交となりそうです。その意味ではこれまでの健康食品と大差ないとも言えますし、根拠資料が公開されるだけましとも言えます。
 根拠資料を読んでもどれが玉でどれが石か判断できない我々素人は機能性表示食品を一切購入しないのが賢いやり方のように思えます。新制度が消費者の支持を失えば、根拠に自信のあるメーカーは専門家の審査があるトクホ申請にもどるはずですから、購入はトクホの認定を待っても遅くないでしょう。

at 07:13, kameriki, 医学

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健康生活認証はモンドセレクションになり得るか

 「博報堂と国立循環器病研究センターは、生活習慣病リスクを低減する生活に資する食事・食品を対象とした「健康生活認証」事業をスタートする」と報道されました。報道によると「認証事業は経済産業省の委託事業である「平成26年度健康寿命延伸産業創出推進事業」に基づき、事業者から受けた申請内容を国立循環器病研究センター内に設置した審査委員会が審査し、合格した商品に対して「健康生活認証」マークの使用許諾を有償で与える。」ものとなるようです。
 経産省の公募事業で採用された博報堂による新たな認証ビジネスのようです。平成26年度健康寿命延伸産業創出推進事業の「健康関連商品・サービスの品質の見える化」の分野で2件が採択されていますが、一つがこの博報堂の認証、もう一つは日本規格協会の「疾病予防・介護予防及び健康維持・増進を目的として、安全・効果・継続、が担保されたものを「疾病予防向けアクティブレジャー」として認証する事業」のようです。これらの委託事業にどの程度の税金がつぎ込まれているのか分かりませんが、税金を使ってまでやるようなこととは思えません。企業が新規認証ビジネスとして自社の資金で立ち上げるのであればかまいませんが、税金を使うのははっきり言って無駄遣いでしょう。
 経産省の公募事業ですから新規ビジネスを立ち上げて産業を興す成長戦略として考えられているものと思います。食品分野では消費者庁が管轄する従来のトクホに加えて新しい食品の機能表示が始まりますので、経産省でも対抗する意味があったのかもしれません。モンドセレクションのように認証で外貨が稼げるようなビジネスとなれば、国民の健康に資する意味はなくても経済成長には貢献するかもしれません。税金をつぎ込むのは無駄としても、箱モノのように維持管理費にさらに税金が必要ということはなく、カジノのように国民の健康や生活に害を及ぼす心配もないことを考えれば、公共事業としてはましな方かもしれません。
 せっかく始めるのであれば、認証マークを欧米などの諸外国に積極的に売り込んで外貨を稼ぐ認証ビジネスに育ててほしいものです。

at 08:19, kameriki, 医学

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自己責任の機能性表示食品制度

 食品表示法が本年4月1日から施行されるのに伴い、機能性表示食品制度が始まります。新制度は3月3日に閣議決定されました。
 食品表示法の第四条には「内閣総理大臣は、内閣府令で、食品及び食品関連事業者等の区分ごとに、次に掲げる事項のうち当該区分に属する食品を消費者が安全に摂取し、及び自主的かつ合理的に選択するために必要と認められる事項を内容とする販売の用に供する食品に関する表示の基準を定めなければならない。」との規定があり、食品表示を所管する消費者庁が新制度の表示基準を作成し、内閣府設置法第七条に基づき閣議決定されたものです。
 新制度はこれまでの健康増進法(旧栄養改善法)に基づく特定保健用食品(特保)と異なり、審査なしの届け出だけで食品の機能が合法的に表示できるようになります。表示基準では食品機能の科学的根拠を開示することが求められ、本当に有効な食品かどうか、自分に適するものであるか消費者が根拠を確認して自己責任で選択する制度と言えそうです。
 アベノミクスの「岩盤規制を破壊する成長戦略」の一つと位置付けられているようですが、健康や安全にかかわる規制は必要なもので安易に廃止したり緩めたりすることは問題が生じる可能性があります。しかし、旧薬事法の規制に触れないように機能のイメージだけを宣伝する脱法的もしくは取り締まられていないだけで違法な宣伝をしている健康食品が氾濫している現状を見ると、これまでの規制は機能していないと言うべきかもしれません。新制度によって有用な健康食品が機能性表示食品に移行し、違法な健康食品が取り締まられて駆逐されていくのであれば、科学的根拠が開示されるだけ現状よりは改善されると言えるでしょう。新制度が国民の健康に資するかどうかは、根拠のない健康食品がどれだけ駆逐されていくかにかかっているのではないでしょうか。消費者も食品の機能表示や根拠資料を読み解くリテラシーが必要とされているようです。

at 06:28, kameriki, 医学

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