健康格差 あなたの寿命は社会が決める

 所得によって健康で暮らせる期間すなわち健康寿命に格差が生じていることを示し、その対策として行動経済学のナッジ(nudge)という考え方を取り入れた試みについて紹介しています。健康寿命に格差が生じる原因は食生活を中心とする生活習慣ですが、健康を損なう低所得層の生活を自己責任と片付けるのでなく、社会全体の問題として捉えて解決する視点を提供しています。塩分の多い食事は高血圧をはじめとして生活習慣病の原因の一つとされていますが、普段摂取している塩分の多くは加工食品由来でメーカーがパンなどの塩分含量を減らすことによって塩分摂取量が減少することを英国のデータで示しています。

 足立区では野菜の摂取量を増やすために飲み屋の付け出しに野菜を出したり、焼き肉屋で野菜と肉が注文されたら野菜から出すと言った取り組みで野菜から先に食べる「ベジ・ファースト」という食べ方や、定食などに野菜を増やして野菜の摂取量を増やす「ベジタべライフ協力店制度」で成果を上げている試みが紹介されています。

 格差社会を背景とした健康格差は世界のトップクラスにある日本人の平均寿命にも影響を及ぼしかねず、深刻な社会問題として対策に取り組む必要があることが記されています。本書は講談社現代新書から出版されたものですが、Webメディア7媒体で全文が読めます

健康格差 あなたの寿命は社会が決める (講談社現代新書)

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健康格差 あなたの寿命は社会が決める (講談社現代新書) [ NHKスペシャル取材班 ]

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「老健」が、親の認知症からあなたを救う!

 社会福祉士で介護の相談に応じるNPO法人を主宰する著者が、自身の経験から認知症患者の終の棲家として老健(介護老人保健施設)を勧めているのが本書です。老健は一般に短期のリハビリによって自宅へ帰ることを目指す施設と認識され、3か月で追い出されるから終の棲家とはならないと思われていますが、本書によれば、家族の意に反して追い出すことはできないとのことです。

 著者は老健が終の棲家となる証拠として、全国老人保健施設協会が「介護老人保健施設における看取りのガイドライン」を作成していることを示しています。本書の前半部では特養、サ高住、老人ホームと比べて老健が如何に優れているかを力説しています。後半部では、認知症の要介護者をどのようにして老健に入れるかについての方法が記されています。物忘れ外来受診、MSW(医療ソーシャルワーカー)との面談、認知症病棟への保護入院、30日経過面談、60日経過面談、MSWより老健の紹介、老健入所面談の7ステップで老健までたどり着くようです。物忘れ外来でMSWを紹介してもらうためには如何に介護で困っているかを力説し、担当医に自宅では看られないことを理解してもらわなければなりません。さらに、MSWを味方につけ「緊急避難的に入院」できる病院を紹介してもらう必要があります。めでたく認知症病棟に入院できても、2か月か3か月での退院を求められるので、老人ホームなどを探して病院に居座って迷惑をかけないふりをし、面談では探しているけれど条件に合う施設が見つからないことをアピールするようです。60日経過面談では退院後の入居先が見つからないことを相談して、病院側から老健の紹介がなければ、自ら言及して紹介してもらう必要があります。入所面談では3か月ごとに「在宅復帰判定委員会」で症状が良くなれば退所となることを説明されるそうですが、認知症は治らないので退所せずに老健が終の棲家となるという理屈のようです。

 老健入所までの7ステップを読んで、これは自分にはできないと思いました。要介護1以上の認定を受けていて、病状が安定していて通院が不要であれば、在宅から直接老健施設に入所を申し込むことができるそうです。入所のための面接で如何に介護が大変で入所が必要かを訴えることは、上記7ステップのMSWとの面談と同様とのことです。7ステップより入所できる可能性が低いようですが、こちらであれば、トライできるでしょうか。

「老健」が、親の認知症からあなたを救う! -特養、サ高住、老人ホームはやめなさい-

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続十六の墓標

 連合赤軍事件で逮捕された永田洋子氏が事件を総括した「十六の墓標」への反響を踏まえた続編として書かれたものです。控訴審で死刑判決が出され、「1988年3月末に上告趣意書を書き上げてから直ちに取りかかったものの、完成するまでには実に1年7か月もかかってしまいました。」と1989年11月8日の署名で「おわりに」記しています。

 控訴審判決では永田洋子氏を死刑とした一審の判決が維持され、同志を殺害した殺人について犯行理由を「被告人の個人的資質の欠点と森の器量不足に大きく起因」としましたが、永田氏は「革命戦士への変革を目指すという共産主義化のための総括」と主張し、リンチ事件での自身の役割に関する事実認定にも不満があったようです。永田氏が「反感や不快、対抗意識ないし嫉妬などの個人的な感情」で多くの同志を殺害したとは考えられず、目的のためには手段としての暴力を肯定する革命思想がリンチ事件の背景にあったものと思います。裁判所は判決で革命思想に踏み込むのを避けたのでしょう。どのような理由でも殺人に対する死刑判決は変わらないから、事件の動機や背景を解明する努力を怠ったのかもしれません。オウム事件の裁判を考えても、裁判所は犯行の理由を解明することに熱心ではないように見えます。

 本書には、人権侵害と思われる過酷な取り調べや留置場での処遇が記されています。逮捕時に永田氏が保持していた現金を警官に押収され猫糞されたことや、生理用品や食品を看守を通して購入することができず「(取調べの)刑事さんに買ってもらいなさい」と言われ、自白の強要に利用されていたという実態も記されています。拘置所では病気の訴えに対しても十分な処置がされず、最終的に永田氏は、脳腫瘍(松果体部腫瘍)が進行し最高裁判決後死刑執行前に拘置所で亡くなっています。

 永田氏は自身で事件を振り返り、正しい「連赤総括」を行うことを使命と考え獄中生活を過ごしたようです。獄中でマルクスの資本論の英訳書を使って資本論の勉強をし、日本の左翼はブルジョア革命を経ずに共産主義化を目指したため、「上からの指導」に絶対的な服従を強制する「旧日本軍」のような「封建的社会主義」に陥っていたと総括するまでに至ったものと思います。

 約30年前の本で、拘置所や取調べなどでの人権侵害は改善していると思いたいところですが、警察署の取り調べの可視化への抵抗を考えるとあまり変わっていないかもしれません。

十六の墓標(続)

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十六の墓標(続)【電子書籍】[ 永田洋子 ]

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FX取引の王道 外貨資産運用のセオリー

 外国為替証拠金取引いわゆるFXについて、銀行や証券会社で為替ディーラーとして勤めた著者が解説した本です。外国為替市場の歴史や基本的な用語の説明、FX取引の仲介会社(FX会社)のビジネスモデルをはじめとしたFX取引の解説が分かりやすく書かれていて、FX初心者にも分かりやすい解説本になっています。

 外国為替市場でBIS調査の日本の銀行等のスポット取引額は2016年4月で1日平均1217億米ドル、金先協会の統計でFX取引額は1807億米ドル、従って日本の外国為替スポット取引の約6割がFX取引とのことです。FX取引の一部はFX会社の自社内で売りと買いによって相殺されますが、相殺されない分についてFX会社は銀行等とカバー取引をしています。FX会社全体として41.3%がカバー取引され2016年4月のデータで1日平均343億米ドルとなり、「銀行等が行うスポット取引全体のうち28%の流動性を供給している」とのことです。銀行等のスポット取引は60%がインターバンク取引、40%が顧客取引なので、顧客取引の70%はFX会社との取引ということになるようです。日本の外国為替市場でのFXの影響力の大きさが分かります。

 著者は本書のコラム(topics)で「政府は投機は悪いもので、投資は推奨すべきものとしているようですが」、「投資と投機はいずれも資産運用でありその手法に違いがあるだけです。」と為替ディーラーらしく投機を肯定しています。著者は本書で低コストのFX取引を外貨預金の代わりに利用することを勧めています。「投資と投機を厳密に区別することは難しい」のですが、一般的には事業等への資金の拠出で事業が成長して利益を上げれば参加者全員が利益を得られる可能性のあるプラスサムが投資で、値動きで利益を得ようとするため参加者全体で収益と損失が相殺されるゼロサムが投機と説明されるようです。この説明では長期の株式保有が投資でFXは投機となりますが、投機には市場に流動性を供給し、「公正で民主的な価格形成」に資する役割があるようです。

 本書には為替相場を予測する方法として経常収支や購買力平価などに注目するファンダメンタルズ分析と為替相場のチャートを解析するテクニカル分析についても解説されています。地政学的なリスクで短期的に為替相場が動く要因についての解説もあり、「リスクオン」で円が買われる仕組みについて、低金利の円を借りて高金利のドルや新興国通貨で運用する円キャリートレードの存在について説明しています。有事となると取りあえず借りている資金を返そうとして保有している新興国通貨などを円に換えるため、円が買われて円高になるとのことです。同じことは低金利のスイスフランでも起こっているようです。絶対購買力平価についてはOECDの算出しているものが代表的とのことです。

FX取引の王道 外貨資産運用のセオリー

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FX取引の王道 外貨資産運用のセオリー [ 大西 知生 ]

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おいしい雑草料理レシピと薬効メモ

 著者が普段から野菜のように食材として利用している雑草と雑草を使った料理を紹介しています。雑草は料理として食べるだけではなく、乾燥してお茶にしたり、搾り汁を患部に塗ったりして利用した場合の「薬効」も記載されています。巻末には「自生ハーブに秘められた薬効 雑草の『不思議』を知る」と題して別の著者による、病気に役立つ雑草の知識と様々な薬効が記されています。雑草にもハーブと同様に様々な薬効を示す成分が含まれていることは否定しませんが、雑草で元気になったという体験談は、但し書きとして健康食品に表示されているように、「体験は個人の感想で、中には効く人もいるかもしれない」程度に思った方が良いでしょう。

 この本が良心的なのは、「食べられる雑草とよく似た毒草があります」「自信がないときは摘まない」と注意を促していることです。ヨモギやアカザ、ハコベなど雑草と言ってもどこに生えているのだろうと思うようなものも載っていますが、ドクダミ、ツメクサ(クローバー)、タンポポ、スギナなども料理しています。ツメクサやタンポポは花や葉を湯がいて食べ、スギナは茹でてから細切れにしてごはんに混ぜたり、トーストに塗ったりしています。ドクダミの葉は熱湯で茹でて冷水にさらせばドクダミ臭が取れるとのことですが、酢味噌和えや天ぷらなどがお勧めで、山菜と同じような調理法のようです。

 庭の雑草が食べられれば、野菜が高騰している時などには助かるかもしれません。

おいしい雑草料理 レシピと薬効メモ

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おいしい雑草料理 レシピと薬効メモ [ 小崎 順子 ]

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介護に役立つ!写真でわかる拘縮ケア

 拘縮とは「関節拘縮」で、本書によると「寝たきりで過ごすうちに筋肉が縮んだり、病気で体の動きが制限されたりして、関節が動かしにくくなる症状」とのことです。介護で関わるのは「筋性拘縮」、「神経性拘縮」、「パーキンソン病などのその他の拘縮」に大別されるようです。脳卒中による片麻痺やパーキンソン病などが原因であっても寝たきりになったり、関節が長期間固定されたりすると筋性拘縮に発展します。いずれの拘縮も筋肉が固くなっている状態が長時間持続することにより進行するため、ケアの基本は筋肉の緊張が和らげられる姿勢を作ることのようです。様々な姿勢を取ったときに体重を支えている筋肉を抗重力筋と呼ぶそうですが、特定の筋肉に重力が集中すると抗重力筋の緊張が高まり拘縮が進むため、「拘縮ケアは抗重力筋対策」と記されています。クッションやタオルを使って隙間を埋め、重力がかかる面積を広くして荷重が分散するようにした正しい姿勢を作ることが大事とのことです。正しい姿勢は、ベッドでの仰臥位だけではなく椅子での座位でも重要です。

 片麻痺のある人は座位でお尻が非麻痺側、上体が麻痺側のS字に傾き、非麻痺側の手足を使いすぎると、連合反応で麻痺側の筋肉が緊張し、麻痺側の拘縮が進む危険性があるようです。非麻痺側の座面にタオルを敷いて高さを調節し、麻痺側の肘の下にクッションを入れて麻痺側の腕を支えることによって、上体の傾きが修正され緊張も緩むようです。

 本書は「正しい姿勢」を取らせるための方法だけでなく、ベッドでの寝返り介助の方法、ベッドから車椅子、車椅子からベッドへの移乗介助の方法なども紹介されています。方法はすべて写真で表示されていて、分かりやすく実践的です。介護の専門職だけでなく家族の介護でも役に立つものと思います。

オールカラー 介護に役立つ! 写真でわかる拘縮ケア

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オールカラー 介護に役立つ!写真でわかる拘縮ケア [ 田中義行 ]

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被差別の民俗学

 柳田國男と共に民俗学を発展させた折口信夫の著作を編集して掲載したものです。日本の芸能と被差別民の関係について記した前半部分は、難しくてよく理解できませんでした。最後に記載されている安藤礼二氏の解説「『被差別』の民俗学から『憑依』の民俗学へ」を先に読んでから本文を読んだ方が理解しやすかったかもしれません。安藤氏は柳田も折口もヨーロッパの「民族学(Ethnology)」の影響を受けながら名称を「民俗学(Folklore)」とすることに固執したと言います。その理由として当時、「ヨーロッパでは国家の形成に抗する『未開』で『野蛮』な社会、すなわち定住して大規模な農耕を始めることを拒否した、遊動性を残存させた豊かな狩猟採集社会は、自らとは物理的にはるかに遠い『外』に探らなければならなかったが、。。。日本では。。。。北端である北海道と南端である台湾に、。。。『原住民』と称した人々が存在していたからだ。」と述べています。

 「3月3日は女が家を離れてものいみの生活をする信仰が、古くからあった。」ことが、雛祭りにつながったようです。「ものいみ」は「少女が、神を接待する為の、聖なる資格を得る」行為で「野山に籠って、女ばかりの生活をした」そうです。遊郭で遊ぶ客を「だいじん」と呼び「大尽」と書きますが、もとは「大神」と書いて、お供を「末社」と言い、これらの用語は神社の神々をなぞらえたもののようです。「昔の神社の祭りの主要なものは宴会で」饗宴を受けるのが神、遊郭の饗宴も同様で受けるのは「大尽」というわけです。大尽をもてなすのが太夫ですから、「当時の人々は、まるで、貴族の女性か遊女の位置の高い女性かでないと、女の高い生活を知らないのが、江戸時代の小説随筆に出てくるところの女性観」と、遊女を穢い売春婦とみる見方を否定しています。「村の青年に結婚法を教える女」があって神社に使える巫女や遊女など「宗教的な要素を持っている女」がその役目を担っていたと、「売色」を宗教儀式的、霊的なものととらえています。

 3章の「ふるさとと海やまのあいだ」はエッセイが記載されていて、1,2章より随分読みやすいのですが、大正9年、10年に書かれた「零時日記」に、「野山の気分の漲った苗字の下に、四角ばった名が納まって居るのはおかしい。」と、今でいえばキラキラネームが増えていることを嘆いている一文は興味深いものでした。

被差別の民俗学

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被差別の民俗学 [ 折口 信夫 ]

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日本銀行と政治 金融政策決定の軌跡

 民主党が選挙で大敗し誕生した安倍政権によって任命され、日銀総裁に就任した黒田東彦氏による「異次元金融緩和」に至るまでの「金融政策決定の軌跡」を記しています。バブル発生を恐れ金融緩和に慎重な日銀と景気刺激、デフレ克服のために緩和の圧力をかけ続ける政府との戦いで、日銀が完全に政権の軍門に下ったのが黒田日銀のようです。

 軌跡は3月に速水優氏が日銀総裁に就任し4月1日に新日本銀行法が施行された1998年から福井俊彦総裁、白川方明総裁を経て、黒田総裁に至るまでが記されています。日銀の完敗の要因として、皮肉にも日銀の独立性を高めた新日本銀行法の制定、民主党への政権交代を経て安倍政権が誕生したことが挙げられています。日銀法改正前の日銀は大蔵省の監督下にあり、政治家からの圧力には大蔵省が盾となっていましたが、新法で独立した日銀は直接、与党政治家の圧力を受けるようになり、新法が日銀に有利となったために現在の日銀法を改正されることを恐れて、日銀法改正を掲げる政治家の圧力が有効に作用するようになってしまったようです。国会承認が必要ですが日銀総裁や副総裁、審議委員の任命権は政府にあり、法改正も可能な政権の意向を無視した政策の実施は不可能だったようです。「中央銀行が法制度的に独立性を保障されたからといって、。。。政治や社会から完全に自律して金融政策を思いのままに決められるわけではない。民主主義国では。。。総裁は政府によって任命されるし、。。。中央銀行法は、議会の多数意思によって変更されうる。」と本書には記されています。

 与党議員が同意した日銀総裁が実施する金融政策を、政府・与党が批判するのは「天に唾する行為である。」のに、「自らが人事の決定に関与していたことをすっかり失念して、日本銀行批判を続けていた」のは「おそらくかつての大蔵省と日本銀行が人事を決め、政治はそれを承認するだけであった頃の意識をいまだに引きずっていたからであろう。」と推察しています。村上ファンドの投資問題で福井総裁が野党の追及を受けた際に、初めて内閣の任命責任が問われる事態となったことがありました。当時の小泉内閣は福井総裁を擁護する必要に迫られ、福井総裁が進めようとしていたゼロ金利解除にも反対できなくなったようです。

 民主党は野党時代、日銀の独立性を尊重する原則に従い、政権の日銀への金融緩和を要求する圧力を批判していましたが、政権を執ってから景気刺激、デフレ克服のため日銀に金融緩和の圧力をかけるようになり、再び自民党へ政権交代後、日銀の応援団がいなくなってしまったようです。このように政権は次の選挙のために短期的に経済が浮揚する金融政策を求めがちで、「民主的な統制を受けない中央銀行が、中長期的な観点から金融政策を決定することが望ましい」という理由で中央銀行には高い独立性が与えられています。本書はアベノミクスが始まったところまでで終わっていますが、株価を上げることを目的として市場参加者が好む大胆な金融緩和政策に、「実体経済の回復につながればよいのだが、たんに資産バブルを発生させるだけに終わる可能性もある。」、物価が上昇した後の「出口政策」で、「日本銀行が、国債の購入停止や売却に踏み切れば、国債の暴落と長期金利の上昇につながりかねず、金融システム不安や財政危機を引き起こす危険性さえある。」と警鐘を鳴らしています。「現実社会では実験的な政策はできうる限り行うべきではなく。。。新しい政策の導入に際しては、。。。慎重に行わなければならない。」とも述べています。

 日銀は黒田総裁の登場前から延々と金融緩和を続けてきたのですが、「日本銀行が量的緩和を拡大しても効果はないと、いくら説明しようとも、量的緩和を求める論者を言い負かすことはできない。実際に量的緩和を拡大して、効果がないと主張しても、緩和の規模が不足している、日本銀行が量的緩和の効果がないと公言するためインフレ期待を引き上げることができない、などと反論されてしまう。一方で、量的緩和を実施し、それとは別の要因で景気が回復したとしても、量的緩和が効いて景気が回復したと主張されてしまう。要するに、金融のさらなる緩和を求める主張には反証可能性がなく、それゆえ絶対に言い負かされることがないのである。」と著者はリフレ派の主張を解説しています。福井総裁は「追加緩和を求める声が上がる前に、先手を打って追加緩和を進めるしか、非難を回避する術はない。」と理解し、「自らの政策理念に反するにもかかわらず。。。追加緩和を積極的に進めた。」そうです。しかし、福井総裁はインフレ目標の設定は拒否し、ゼロ金利を解除してバブルは発生させませんでした。白川総裁はリーマンショックやユーロ危機など外的要因で進んだ超円高に対処し様々な非伝統的な手法を編み出して緩和政策を進め、任期最後は政権を奪取した安倍首相に2%上昇の物価安定目標の共同声明を発表するところまで追い込まれましたが、「政策協定」は拒否しました。歴史的にみて現在の黒田日銀を危うく感じました。

日本銀行と政治-金融政策決定の軌跡 (中公新書)

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日本銀行と政治 金融政策決定の軌跡 (中公新書) [ 上川龍之進 ]

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クルド人 国なき民族の年代記

 「国家を持たない最大の民族」と言われ、イラク・モスルでのISとの闘いで脚光を浴びているクルド人の歴史について、1936年生まれのクルド人作家フセイン・アーリフと1970年生まれの次男マツダ・アーリフへのインタビューを中心として、彼ら「老作家と息子が生きた時代」を記しています。「マツダ」の名前の由来はゾロアスター教の神アフラマズダから来ているとのことなので、自動車メーカーのマツダと同じです。クルド人のほとんどはイスラム教徒で3/4がスンニ派残りが主にイランに住む「シーア派の12イマーム派」とのことです。しかし、「自然を崇拝するゾロアスター教の感覚に近い」「クルド人の本来の宗教心」が残っていて、「イラクのクルド人は概して世俗的」なようです。

 「2014年の米国議会調査局(CRS)のリポートでは、クルド人は全世界に3000万人。。。。トルコに1500万人、イランに800万人、イラクに500万人、シリアに150万人、欧州などに移民として100万人強が住むと」推計されているそうです。トルコではクルドの独立を掲げて武装闘争も辞さないPKKがテロ組織と認定され、クルド人はトルコで弾圧されているイメージが強かったのですが、イラク戦争前のサダム・フセイン政権下でイラクのクルド人は徹底的に弾圧され毒ガス攻撃にさらされたりした歴史があったようです。イラクのクルド人は欧米や旧ソ連、地域大国であるイランやトルコの思惑に翻弄されてきましたが、1968年バアス党による2度目のクーデターで混乱の中、北部キルクークではクルド人が武装蜂起し、バアス党は1970年に一時休戦のためイラク北部クルディスタンでの自治を提案し、合意されました。しかし、その後、バアス党政権はクルド自治区へのアラブ人の入植を奨励して自治合意が蔑ろにされ、クルド人部隊ペシュメルガとの武力衝突が激化したようです。バアス党は旧ソ連寄りの政権で、米国は対抗するためにクルド人を支援し、イランの支援も受けたペシュメルガはイラク北部でイラク政府軍と全面戦争を繰り広げましたが、1975年のアルジェ合意でペシュメルガの敗北は決定的となりクルド人はイラン国境地帯の山岳部へ敗走したそうです。アルジェ合意はイラクがイランとの国境地帯シャトル・アラブ川の係争地をイラン側に譲ることを提案したもので、イランがクルド支援をやめることを引き換えとしました。この合意後、米国もクルドの支援をやめ、クルド人に支援者は現れなかったようです。クルド人は「山のほかに、友はなし」と、よく言うそうです。このアルジェ合意で譲った領土を取り戻そうとしたのがイラン・イラク戦争で、イラクが合意を破棄したためイランはクルド人の支援を再開し、その後の湾岸戦争でサダム・フセインが敗北した際にクルド人は武装蜂起します。武装蜂起は鎮圧されましたがクルド人は難民となり国際社会から注目されたため、北部でのイラク軍航空機の飛行禁止区域が設定されクルド人保護のための安全地帯ができました。1992年再び自治が合意されクルド地域政府議会選挙が実施され、クルド愛国同盟(PUK)とクルド民主党(KDP)が50議席ずつ、残りの5議席はキリスト教徒とアッシリア人に割り当てられたそうです。この選挙で作家のフセイン・アーリフはPUKの議員となります。その後、1994年PUKとKDPによるクルディスタンでの「クルド内戦」がおこり、PUKがイランの支援を受けて攻勢を強める中、KDPはあろうことか、サダム・フセインに支援を要請しイラク軍を招き入れ、国際社会の非難を浴び、内戦は1998年のクリントン米国大統領による仲介まで続いたようです。

 イラク戦争でサダム・フセイン政権は崩壊し、ISによってイラクの治安が脅かされる中、クルディスタンは米国の協力のもと安定した自治区が運営され、外国資本の投資も活発化して欧米のような近代的な社会が築かれつつあるようです。そんな中でも「部族主体のクルド社会は保守的で、結婚前の交際は許されない」ようで、「不貞な行為」をした娘を父が殺す「名誉殺人」も存在し、この保守的伝統的価値観と欧米の影響を受けた自由恋愛との間で苦悩する少女による抗議の焼身自殺も増えているそうです。

 トルコ、イラン、イラク、シリア各国でクルド人が少数派であることは同じですが、置かれた状況はそれぞれ異なり、クルド語には大きく異なる方言があって標準語がなく、部族主体の社会でもあり、諸国のクルド民族が単純に同一民族として大同団結するというわけには行かないようです。本書はイラクのクルド人について記された本です。

クルド人 国なき民族の年代記――老作家と息子が生きた時代

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クルド人国なき民族の年代記 老作家と息子が生きた時代 [ 福島利之 ]

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父と私

 田中真紀子氏が父、田中角栄氏と自身について記した本です。脳梗塞で倒れた後の田中派後継を争い目白の田中邸を訪れた自民党議員の暗躍や、金大中氏が東京で拉致された日に「金」と名乗る人から角栄氏にかかってきた電話を取り次いだ真紀子氏が「命、命だけは絶対にダメだぞ!」と電話で角栄氏が話していたのを聞いたことなど、興味深い裏話が紹介されています。

 総理の外遊に夫人(ファーストレディ)の同伴はつきものですが、角栄氏は夫人ではなく娘の真紀子氏を同伴していました。夫人が病弱なため同伴できないと思っていましたが、真紀子氏はその理由を、「母は。。。。重い中耳炎を患って補聴器が手放せない状態。。。もともと控えめで華やかな場に出ることを好まなかった母は、。。。和服を着ていたこともあって着替えに時間がかかった。そうした事情から、。。。アメリカ留学の経験もあり、。。。私が自然の成り行きとして母の代役を務めることが多くなった。」と記しています。これだと、夫人より娘がファーストレディの任にふさわしかったように読めますが、「『マキ子には世界中を見せてあげる。それがお父さんの夢だ』と言い続けていた」とも記していますので、案外、親ばか的な理由があったのかもしれません。しかし、中国との国交正常化交渉のために訪中する際に角栄氏は「。。。今回の訪中だけは別ものだ。中共という国が。。。何をしようとしているのか何一つとして正確な情報はない。しかも国内においては台湾派、親米派による猛烈な反対がある。。。いつ撃たれるか、毒を盛られるかわからぬ状況で出発をする。。。」と言って、真紀子氏を伴わずに出かけたそうです。日本の国益のために命懸けで外交交渉に臨む政治家の覚悟を見た気がします。

 真紀子氏の夫、田中直紀氏は田中家の力で代議士になって真紀子氏の尻にひかれている頼りないイメージがありましたが、本書によると、角栄氏が脳梗塞で倒れて後継争いで大変な時に、「新米代議士」であった直紀氏が「父の地元の支持者の方々や国会議員、マスコミ等、対外的スポークスマン役の全てを秘書の方々の協力を得て、引き受けてくれた。」と真紀子氏にとって頼もしい主人であったことを知りました。

 父は偉大な政治家で先見の明のある政策を実行してきたとの考えで記載されていますので、ロッキード事件については疑問を投げかけ、日本列島改造論につながったガソリン税で道路をつくる政策などについては高く評価しています。しかし、「道路特定財源であるガソリン税に対して大蔵省は、『税金を特定の目的に使う特定財源は政府の予算編成権を拘束する。憲法違反だ』と反発したそうですが、ガソリン税で無駄な道路がたくさん作られた現実を見ると、憲法違反かどうかは別にして、当時の大蔵省の懸念が当たったことになります。角栄氏が金権政治と批判されたことについては答えていませんが、庭にいた鯉の話や何人もの秘書や書生がいた話など、随所に大金持ちであったことが分かるエピソードが載っています。その暮らしがどうやって維持されていたのか。本書で真紀子氏はパパラッチや怪しげな秘書など田中角栄氏を利用して金儲けをしようとした輩を非難していますが、庶民感覚では政治家としての角栄氏の功罪の「罪」の方も意識してしまいます。

 真紀子氏が外務大臣として外務省を改革しようとして抵抗にあい挫折した議員時代のことや、現在のトランプ政権や安倍政権に対する懸念なども記されていますが、こちらは共感できました。

父と私 (B&Tブックス)

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父と私 (B&Tブックス) [ 田中眞紀子 ]

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