生物学者、地球を行く

 様々な環境で生きる生物についてそれぞれの研究者が紹介しています。生物の解説だけでなく、タイトルにあるように、その場所まで行くことが重視され、一般の人がそこに行く際の難易度まで記載されています。

 生態系は、多くは太陽光をエネルギーとする光合成により植物が有機物を合成することから始まる食物連鎖に支えられていますが、太陽光が届かない深海底に化学物質をエネルギーとする「化学合成生態系」が存在するそうです。海底火山から供給される硫化水素やメタンが酸化するときのエネルギーで海水中の二酸化炭素から有機物を合成する細菌が生存し、化学合成生態系が成り立つようです。光が届かないのは深海底だけではなく、森の地面(林床)でも鬱蒼とした茂みで遮られて太陽光が殆ど届かないようです。わずかな光で光合成をする植物もいますが、光合成を止めて菌類から養分を略奪する「菌従属栄養植物」が存在するそうです。光合成をしている植物の菌根共生と異なり、一方的に菌類から栄養分を得るために菌類をだまして寄生しているようです。

 本書によると熱帯雨林では数年に一度、多くの森の木々が同調して開花結実する現象がみられるそうです。結実しない年は種子の捕食者には餌が不足しますから食糧不足で捕食者の個体数は減少し、一斉開花結実した際に捕食者が食べきれず生き延びる種子が増え、これを「捕食者飽和現象」と呼ぶそうです。

 本書には動物も登場し、ボルネオ島でテングザルの反芻行動を発見した研究について紹介されています。反芻動物と言えばウシなどの偶蹄類で、テングザルは四つにくびれた複胃を持ちますが、カバやナマケモノのように複胃を持っていても反芻行動をしない動物と思われていたようで、著者の発見はなかなか信じてもらえなかったようです。50年以上前のドイツ語の文献に動物園での観察の報告があるようですが、これはチンパンジーなど大型類人猿のケージ飼育で見られる吐き戻し行動と同じ異常行動とみられ、反芻行動とは認識されていなかったとのことです。

 上記の他、極地や砂漠、宇宙など様々な環境での生物について興味深い記述が満載です。

生物学者、地球を行く―まだ知らない生きものを調べに、深海から宇宙まで

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生物学者,地球を行く まだ知らない生きものを調べに,深海から宇宙まで [ 日本生態学会 北海道地区会 ]

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あの会社はこうして潰れた

 帝国データバンク情報部で企業調査を行っていた著者が倒産した企業の個別事例を記したものについてまとめて掲載されています。掲載事例は37件あり、企業は実名で掲載されていますので、「あの企業もこの会社も倒産していたんだ」と思う例がいっぱいあります。多くの企業は再建されていますので、ホームページを見ても倒産していたことに気づいていないこともあるでしょう。

 アベノミクスで円安が進み株価が上昇して景気回復したと評価されています。自動車メーカーをはじめとする大手の輸出企業にはメリットがありましたが、円安にはデメリットもあります。物価上昇で庶民は生活が苦しくなり、輸入企業も仕入れ価格の増加で苦しんだようです。本書によると、2014年上半期(4〜9月)の輸入関連企業の倒産は前年同期比7%増の260件だったそうです。富山発祥の回転ずし「かいおう」も、円安による寿司ネタの仕入れ値上昇に苦しめられ、チェーンの急拡大による資金繰りの悪化もあって倒産したようです。

 本書には有料老人ホームの運営会社の倒産事例についても紹介されています。入居者不足と入居者死亡による保証金返還で資金繰りが悪化したようです。本書には有料老人ホームを選ぶ際の注意点として、都道府県の保健福祉局などが公表している「重要事項説明書」を確認するよう勧めています。室数と定員が分かるので、施設に入居者数を問い合わせれば入居率が計算でき、80%以上なら経営が安定している目安となるようです。介護サービスの有無や職員一人当たりの入居者数、職員の雇用状況、保証金の保全状況なども確認するのが良いようです。

あの会社はこうして潰れた 日経プレミアシリーズ

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あの会社はこうして潰れた (日経プレミアシリーズ) [ 帝国データバンク情報部 藤森徹 ]

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米国人博士、大阪で主婦になる。

 日本人男性と結婚し、大阪在住の主婦となった米国人女性Tracy Slater氏が、日本人と韓国人からなるクラスのMBA研修旅行のプログラムに教師として参加し出会った教え子と恋に落ちてからを中心に自身の軌跡を記した本です。原題は「The Good Shufu」で英語で書かれたものです。日本語タイトルにもあるように著者は米国大学で英米文学の博士号を取得しボストンで講師やライターなどをして自立した生活をおくり、ボストンの暮らしを愛し、誰かに依存した生活を嫌悪していたはずが、真逆と思われるような大阪在住の主婦という立場を受け入れていったかについての心の葛藤が描かれています。著者は幼少期に両親の離婚で寄宿学校に入れられるという苦労を経験していますが、裕福なユダヤ人家庭でしたので、家事などは使用人を雇ってやらせればよいという価値観を持ち、料理や掃除を自身がやることなど考えられなかったようです。

 著者はボストンでのキャリアを継続し、大阪での主婦との二重生活を試みようとしますが、夫の母が亡くなって一人暮らしとなった父の介護が必要となり、自身の人工授精による不妊治療を継続するためにボストンとの二重生活はあきらめざるを得なくなりました。数回の流産を経験し、45歳を過ぎて人工授精はあきらめましたが、その後、奇跡的に自然妊娠し、安定期に入ったところまでで本書は終わっています。継父は妊娠を知らされますが、誕生を見ることなく、すい臓がんで亡くなりました。出生前検査に一喜一憂していましたが、無事に娘さんが生まれたようです。

米国人博士、大阪で主婦になる。 (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ II-11)

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「在宅ホスピス」という仕組み

 ホスピス勤務の経験から在宅で緩和ケアを提供する「在宅緩和ケア充実診療所ケアタウン小平クリニック」のシステムを構築し、院長を務めている医師が在宅ホスピスについて解説し、終末期医療、緩和ケア、尊厳ある看取りなどについて考察した本です。著者、山崎章郎氏は「病院で死ぬということ」の著者でもあります。

 余命短い患者に延命ではなく痛みや苦痛の除去を中心とした緩和ケアを行うホスピスの対象となるのは、日本では主に末期がん患者ですが、著者のクリニックが行っている在宅緩和ケアではがん患者以外も含めて在宅で看取りができることを目指しています。在宅療養を開始した人のうち在宅での看取りに至った人の割合を「在宅看取り率」と言っていますが、小平クリニックでの平成26年4月から29年3月までの3年間の在宅看取り率は癌患者で82.9%(223人)、がん以外の患者で89.7%(26人)だったそうです。自宅で患者の様態が急変した時などに、介護者が慌てて救急車を呼べば、病院に運ばれるか、間に合わなければ検視のための警察官が呼ばれることになってしまいます。患者が延命治療を望んでいなければ、最初に在宅医に連絡することによって、自宅で最期を迎えられるようです。

 看取りまでの在宅ホスピスを成立させるためには24時間可能な介護者が必要になります。夜間に家族などの介護が受けられなければ、夜間の訪問介護を受ける必要があり、自費で契約する必要があります。末期のがん患者の場合、残された時間は長くはありませんので、家族がいなくても介護者と契約することによる在宅ホスピスも金銭的に可能かもしれません。末期がんの患者では状態が急激に悪化することが多く、介護保険の認定が間に合わないあるいは認定された介護度が実態と合わないことも多いようです。

 夜間の介護で問題となるのがせん妄で、ホスピスでは夜間に少なくなる看護スタッフの負担軽減のため薬剤で夜間せん妄を抑制することが多いようです。在宅でも介護者の負担となることは同じですが、介護する家族が事情を分かっていれば、薬剤を使わずに患者の言動に付き合いながら対処することも可能です。在宅のエピソードでせん妄で混乱した母に怒鳴ってしまった娘が、次の晩に夜間せん妄の抑制のために用意された薬剤を使わずに一晩過ごしたことについて、薬剤で睡眠中に母が亡くなってしまったら最後の言葉が怒声になってしまうことが耐えられず、一晩付き合って怒声を浴びせたことについて謝ったということを紹介していました。

「在宅ホスピス」という仕組み (新潮選書)

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「在宅ホスピス」という仕組み (新潮選書) [ 山崎 章郎 ]

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クー・クラックス・クラン 白人至上主義結社KKKの正体

 トランプ大統領の登場で再び注目されている米国の白人至上主義結社クー・クラックス・クラン(KKK)について、主にその歴史を記した本です。著者はKKKを3期に分けて解説しています。第1期の始まり、すなわちKKKの結成は南北戦争の終了後間もない1866年、テネシー州プラスキという町で、元南部連合軍兵士だった若者6名によるイタズラ集団だったそうです。著者によると、この当時のKKKについて確かな資料が残っているわけではなく、本書でも「うわさ」として扱っています。南北戦争の結果、黒人の選挙権が認められ黒人票により共和党が支配するようになった南部の政治状況でKKKは白人の既得権益層を守ろうとする自衛的な組織だったようです。共和党員や黒人をターゲットにしたKKKのリンチ活動で投票が阻まれ選挙で民主党の議席を増やす結果につながったようです。当初米国でのリンチは黒人だけが標的ではなく1882年から85年の4年間では白人のリンチ被害者が黒人の3倍多かったのですが、1886年から逆転し、それ以降は黒人が主にリンチの対象となっていったそうです。KKKの暴力行為が連邦政府の取り締まり対象となり連邦軍が派遣され、1869年KKKの代表が解散を宣言して第1期KKKの組織的活動は終了したとされています。その後、各地の独自活動がエスカレートしましたが、1870年制定されたいわゆる「クラン対策法」による連邦政府の取り締まりで消滅させられたようです。

 米国社会は都市化と移民の流入が進み、危機感を抱いたアングロサクソンによる移民排斥論がおこりました。中国人や日本人に対する移民制限が実施される社会背景を受けて、1915年アングロサクソンの優越を唱えたウィリアム・ジョゼフ・シモンズによってジョージア州でKKKの復活が宣言されたそうです。この第2期のKKKではリンチもありましたが、慈善活動や娯楽行事、ねずみ講まがいの勧誘などで会員を増やし、最盛期の1924年には数百万人の会員がいたそうです。幹部の婦女暴行事件、権力争いの裁判により露わになった幹部の金満とKKKが主張していた移民制限が実現した社会背景で会員数が激減し1930年代には第2期が終了したようです。1960年代、黒人の地位向上を目指す公民権運動を阻止する目的で各地の残党が結集し、黒人に対する暴力集団としての第3期が始まるようです。

 秘密結社の性格上、取材しても全貌が明らかとなるはずもなく、現在のKKKが第1期の後継と見なせるのか異論もあるかもしれませんが、奇妙な衣装で仮装をするところは第1期から共通しているようです。秘密結社と言えばフリーメーソンが有名ですが、米国社会では相互扶助のための互助会として秘密結社が19世紀に盛んとなったそうです。

新書827クー・クラックス・クラン (平凡社新書)

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クー・クラックス・クラン 白人至上主義結社KKKの正体 [ 浜本 隆三 ]

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富山の祭り 町・人・季節輝く

 富山には多くの祭りがあります。八尾の「おわら風の盆」は有名ですが、それ以外にも2016年に「山・鉾・屋台行事」としてユネスコ無形文化遺産に富山県から選ばれた高岡御車山祭、城端曳山祭、魚津たてもん祭りもあります。本書には、上記に加え、福野夜高祭、伏木曳山祭、岩瀬曳山車祭、となみ夜高まつり、さんさい踊り、つくりもんまつり、放生津(新湊)曳山祭の合計11行事が章立てで紹介されています。さらに、コラムで子供曳山祭り(富山市四方)、高砂山願念坊祭り(富山市下大久保)、八尾曳山祭、五箇山麦屋まつり(南砺市下梨)、こきりこ祭り(南砺市上梨)、布橋灌頂会(立山町芦峅寺)、ネブタ流し(滑川市)、ヤンサンマ(射水市加茂)、邑町のサイノカミ(入善町上野)が取り上げられています。さらに、「富山の祭りを概観する」と題した第1章では上記以外に、オーベッサマ迎え、山の神祭り(黒部市宇奈月町下立)、築山神事(高岡市二上)、氷見祇園祭(氷見市)にも言及されています。

 曳山は京都の祇園祭の山・鉾のような大きな造形物を曳き回す行事で、曳き回すものは「山車」もしくは「山」と書いて、北陸では「やま」と読むようです。「山車」と書いて「だし」と読むと、子どもの頃に覚えていましたので、関東では主に「だし」と呼んでいるのでしょう。富山県は曳山行事が多いように思っていましたが、1997年宇野氏の「加越能の曳山祭」によると「越中の曳山91輌、庵屋台14基、行灯の山車約100基、これらを加えた総数は200ほどで、県レベルでは多い数ではない」と本書に紹介されています。

 高岡の御車山祭は1610年の創始と伝承される全国でも歴史のある曳山祭りのようです。高岡の町衆は近隣の町が御車山に類似した山車を創ることを許さず、金沢に曳山祭りがないのはそのためとのことです。富山の曳山祭りは造形物の優雅さを競って見せるものと、異なる町内の曳山同士が相対して争う「けんか山車」タイプがあります。本書に記載されている中では、福野と砺波の夜高祭り、伏木と岩瀬の曳山がこのタイプです。福野夜高祭では二日目(最終日)にすれ違う際、互いの行燈を壊しあう「引き合い」をし、となみ夜高まつりでは初日に「ヨータカ」と呼ぶ行燈の造形美を競い、2日目は「突き合わせ」でヨータカをぶつけ合います。伏木では「かっちゃ」、岩瀬では「曳き合い」とよぶ山車のぶつけ合いをします。岩瀬で山車は「たてもん」と呼ばれ、魚津のように本来、背の高いものでしたが町に電線が張られて背が低くなったようです。青森のねぶた、弘前のねぷたも同様で、青森でも背は低くなりましたが、道幅が広がったことにより横に大きくなっていったようです。岩瀬では道幅が狭く台車が固定されていたため大きくならなかったそうです。

 魚津のたてもんは車輪がなくソリ台に載せた大万燈をアスファルトを削りながら人力で曳き回すようです。

 夜高祭りや岩瀬の曳山などでも青森のねぶたのような造形物を曳き回しますが、滑川のネブタ流しでは装飾した藁大松明に火をつけて海上に流すようです。柳田國男によれば、滑川がねぶたの日本海側南限で「ネムタ流され、朝起きやれ」と言いながら子供たちが村中を回って松明を運ぶ、この行事が「ねぶた」の原形のようです。

 富山も多くの町で人口が減少し伝統の祭りを継承することは簡単ではありませんが、ボランティアの助けを借りるなど、どの町でも創意工夫をしながら祭りを維持しているようです。

富山の祭り 町・人・季節輝く [ 阿南透 ]

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科学者はなぜ神を信じるのか

 カトリック教会の助祭で理論物理学者の著者が歴代の科学者、主に物理学者が「神」をどのように考えていたか、考察した本です。著者の見解は終章に記されていて、「科学法則の創造者を『神』と定義しています。ルールが存在するということは、その創造者である神が存在するということだ、と考え」ているようです。実在した人物であるキリストが「神」、と信じるキリスト教の神とはずいぶん違う「神」のように感じますが、キリスト教の神は父と子と精霊の「三位一体の神」で、この世に降りてきた「子」であるキリストを唯一の神とするのは厳密ではないと解説していますので、著者の中では矛盾はないのかもしれません。

 「日はとどまり 月は動きをやめた」という旧約聖書「ヨシュア記」の記述に反しているとして攻撃された地動説を唱えたコペルニクスはカトリックの司祭で、異端として裁判にかけられたガリレオもカトリックの信者でしたから、彼らにとって神を信じることは当たり前でした。ガリレオは「聖書と自然はともに神の言葉から生じたもので、前者は精霊が述べたものであり、後者は神の命令の忠実な執行者である。。。。自然科学的結論と一致するように、聖書の章句の真の意味を見出すことは注釈者の任務である」と述べたと本書に記されています。ローマ教皇もこの見解を支持し、進化論については身体の起源として否定せず、霊魂は神によって創造されると信じるよう教えているようです。

 重要な物理法則を発見したニュートンは宇宙が物理法則に従って創られたのであれば、その物理法則を創ったのは「神」と信じていたようです。アインシュタインはダーウィンの進化論を知って、聖書の記述を信じさせようとする教えに反感を感じていたとのことです。自身が完成させた一般相対性理論とアインシュタイン方程式によって予測された宇宙の膨張や収縮を否定するために「宇宙項」を加えた方程式を作りましたが、「定常宇宙」という先入観にとらわれていたようです。カトリックの司祭であったルメートルは宇宙項なしで計算して「宇宙は膨張している」という結論を導き、時間を戻せば「宇宙の卵」である原子よりも小さな粒子から始まる「原始的原子の仮説(膨張宇宙論)」を発見したそうです。銀河の動く速度が距離に比例していることが観測され、宇宙の膨張が証明されて「ビッグバン理論」となり、アインシュタインも宇宙項を「わが生涯における最大の過ち」と悔やんだと本書に紹介されています。「ビッグバン理論」は聖書の「創世記」に記述されている「神は『光あれ』と言われた。すると光があった」という「天地創造」の考え方に都合がよく、教会は「原始的原子」を創ったのが神としたようです。聖書の教えに反感を持っていたアインシュタインは自然法則を創ったものとして「間違いなく神を信じていました」と著者は言います。

 無神論者と公言していたホーキング博士は宇宙の始まりを否定するために虚数で記述される「虚時間宇宙」というアイデアを考え出しました。虚時間宇宙は証明されていませんが、「物質を究極まで小さくしたものは粒子でなく長さがある『ひも』であるとする」「超弦理論」で重力を量子化する研究が、宇宙を量子で考えビッグバン以前の宇宙を証明することにつながるかもしれないことが本書に記されています。科学者の神についての考え方が本書の主題ですが、地動説から始まって現在の宇宙物理学につながる物理学の歴史の一端も知ることができて、興味深く読むことができました。

科学者はなぜ神を信じるのか コペルニクスからホーキングまで (ブルーバックス)

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恐怖を知らない人たち FEAR FACTOR

 本書は米国の心理学者が記した「The Fear Factor: How One Emotion Connects Altruists, Psychopaths, and Everyone In-Between」の訳書です。Psychopath(サイコパス)は近年マスコミでも犯罪心理学などで耳にすることが増えましたが、Altruistは耳慣れない言葉です。Egoistの対義語で利他主義者と訳されます。

 「サイコパシーは発達障害の一つ」でサイコパスの大人の数だけサイコパスの子どももいたということになりますが、サイコパスと呼ばれることの負の影響を考えると子供をサイコパスと絶対呼んではいけないと著者は言います。サイコパスはサイコパシーチェックリスト改訂版(PCL-R)のスコア30点以上(最大40点)で判定され、10歳以上の子ども用の青少年版(PCL:YV)もあるそうです。PCL:YVで高い点数を示してもサイコパスの大人にならない人も多く、PCL:YVには判定基準はないそうです。著者はサイコパシーの症状があると思われる子供のボランティアを集めてfMRIで脳機能を解析し、人のおびえた表情を見た時に起こる偏桃体の活性化がなく無表情の顔を見た時と変わらなかったことを明らかにしています。被験者からの聞き取りでは、表情から相手がおびえていると認識する能力が低いようです。

 個々人の偏桃体の機能にはばらつきがあり、正規分布するとすれば、サイコパスの対極にある人たちも存在するはずです。著者はそれが利他主義者で、しばしば危険を顧みずに勇敢な行動をする彼らは、恐怖を感じないのではなく、他者への共感が強いために直感的に利他行動をしているようです。著者はレシピエントが誰になるか知らずに匿名で自分の腎臓の一つを提供した「利他的な腎臓ドナー」を利他主義者の被験者として集めて、おびえた表情への感受性が高いことを明らかにしています。利他行動の起源として、人間以外の哺乳類でも見られる他人の子どもを育てるアロマザリング(allomothering)について考察しています。餌報酬でレバー押しを学習した母ラットで、出産後、子どもを引き離して、レバーを押すと餌ではなく子供のラットが目の前に現れるようにしたところ、現れた子供を巣に運ぶ行動が見られ、別の母ラットの子どもでも同じように運んだという実験があるようです。研究者が実験を打ち切るまで3時間行動は続けられたそうです。おびえた表情は赤ちゃんの顔と特徴が似ていて、その特徴が共感のシグナルになると考察しています。また、オキシトシンがおびえた表情を認識する感受性を増加させるという研究もあるようです。

 著者は本書の大半をサイコパスではなく利他主義者について記していて、「他者の苦しみへの感受性は高いが、彼らの憐みや思いやりの能力は、大半の人間に潜んでいる同じ神経メカニズムが関わっている」と述べています。

恐怖を知らない人たち

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巨人の箱庭 平壌ワンダーランド

 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)という国家について平壌の建築を中心に考察した本で、建築物だけでなく絵画やポスターなどの豊富な写真も掲載されていて、マスコミ報道ではわからない北朝鮮の一面が垣間見れるものとなっています。

 著者によると「平壌にはロシア構成主義建築による人口250万人の都市が形成されている」とのことです。構成主義建築はロシア革命期の建築で当時の新素材、コンクリート、鉄骨、ガラスなどを使って装飾性を排除した幾何学的な形態を特徴とする建築のようです。建国の父、金日成は抗日運動からソ連軍の支配下に入り大尉にまで昇進しました。戦後、金日成はソ連に統治された北朝鮮の指導者となり、スターリンの影響下で建国したため平壌にはロシア式の都市ができたようです。ロシアはヨーロッパですから、平壌にパリをモデルとした凱旋門があるのも、納得できます。

 朝鮮戦争、東西冷戦、中ソ対立などの世界情勢で、北朝鮮は外交により中ソ両国から援助を引き出すのが大きな産業となっていたようです。自然災害によって国家が維持できないほどに疲弊した金正日時代に、「先軍政治」により治安維持につとめ、平壌の内と外を分ける北朝鮮国内の国境線「平壌ライン」を引いて体制を維持したようです。日本でも都市と地方の格差是正が問題となっていますが、物理的なラインで警備して移動を制限する「国境」まで作られたのでは、その外に置かれた人たちの激しい怒りを買ったのではないかと思います。著者によると平壌へ入るより中朝国境を超える方が容易なため、生活できなくなった平壌の外の市民は平壌流入や体制批判よりも脱北を選んでいるとのことです。北朝鮮は国内に国境がある特殊な国に見えますが、日本でも沖縄への在日米軍基地の集中を考えると国内に見えないラインを引いていると言えるかもしれません。

 北朝鮮が共産主義から「主体思想」による独自の体制に移行したため、金正恩へと三代続く「金王朝」による支配体制が完成したようです。被支配層の平壌市民は、生まれた時からそれなりに安定した生活ができる世代に交代したため、支配、被支配の構造が安定し、指導者が若くても安定した体制が維持できているようです。

 著者はファンキー末吉氏と共に平壌の高等中学校の音楽教室でロックを教えるプロジェクトを10年続けたとのことで、そのプロジェクトに参加した平壌の女子高生9人の写真も掲載されています。

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蠅たちの隠された生活

 大英自然史博物館のハエの研究者がハエの生態について紹介した本です。この本に紹介されているハエはハエ目で蚊やアブなども含まれています。本書を読んで驚くべきはハエ目の多様性です。本書はハエが何を食べているかによって、章に分けて記述されていますが、花の蜜を吸って受粉に協力している「受粉者たち」、朽ちた木や腐った生ごみなどを食べる「分解者たち」、植物の葉などを食べる「採食者たち」、キノコなどを食べる「菌食者たち」、生きた昆虫などを食べる「捕食者たち」、動物に寄生する「寄生者たち」、血を吸う「吸血者たち」、さらに「糞食者たち」と「死肉食者たち」が紹介されています。

 「吸血者たち」は蚊やアブなどで、血を吸うのは多くは雌だけですが、サシバエは雄も血を餌とするため吸血するそうです。「寄生者たち」はしばしば、宿主を食い尽くして殺してしまうためグロテスクに感じますが、蜂の巣穴に入り込んで寄生するツリアブは蛹が表面のとげで動くことができ、巣から出ることができるという驚くべき能力を示すそうです。ツリアブモドキ科には蜜を吸うための口吻が体長の8倍(体長1僂埜吻が最大8)に達するものもいるとのことです。朽ちた樹木を食べるパントフタルムス科には翅を広げると8.5僂砲眞する巨大なハエがいるそうです。アメリカミズアブのウジ(幼虫)は鶏の糞を食べて大きくなり、蛹になって鶏の餌になるそうです。アメリカミズアブの養殖は一大ビジネスとなっているとのことです。

 著者のようにハエが好きにはなれませんが、本書を読むとハエの生態に興味は湧いてきます。

蠅たちの隠された生活 (大英自然史博物館シリーズ)

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蠅たちの隠された生活 [ エリカ・マカリスター ]

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